フェリーニは

樂典久已

2015年12月23日 18:06



アカデミー賞特別名誉賞ならびに4度のアカデミー賞を取るなど
「映像の魔術師」と呼ばれている。私の好きな映画監督でもある。

代表作としては、『道』『道化師』『フェリーニのローマ』『アマルコルド』
などが挙げられる。
『ローマ』や『アマルコルド』は自身の自伝的映画。
アドリア海に面した小都市リミニで生まれ、少年時代を過ごしたが、
『アマルコルド』は、ここを舞台にした映画。

春を迎える火祭りから、翌年の火祭りまでの一年を少年の目から垣間みた
オトナの世界や少年らしさのあらわれた映画作品。
『フェリーニのローマ』も、自身の過ごした体験を縦軸にとった話。
地下鉄工事で掘り出した極彩色の壁画が空気に触れて
みるみる色を褪せさせるところなどは、一つの映画らしい手法とも言える。

ただ、このフェリーニ自身が語った経験や経歴は、
自叙伝もあるがかなり信憑性を欠いている。この辺が面白い。
そのあたりのことを、彼を良く知る人物は、彼は生まれつきの”ストーリー・テラー”。
すなわち、虚構の語り手なのだという。

彼にとって、現実と虚構は対立関係ではなく、むしろ、
”現実”を少ばかり補填するものなのだという感覚を持っていたようだ。

彼の作品に登場してくるものは、
詐欺、ペテン、嘘、騙(かた)り、そして道化師。
そういった人物は、一様に、一癖(クセ)も二癖もある。
許し難い性癖の人物たちが、憎めない”愛すべき人物”として描かれている。
こんな姿が、さすがにイタリア人と思わせるところがある。

そう言えば、先日まで話題になっていた”耳の不自由な作曲家”を騙った、かの人。
嘘、騙りがあからさまになり、今は、話題にも上らなくなったが、
言ってみれば、同様な一癖も二癖もある人物。

同じ虚言の性癖を持っているようだが、
とてもフェリーニの映画に出てくるような”愛すべき人物” には、なれそうにない。